
田中裕樹ジュニアリサーチグループリーダー
私は2018年に研究所雇いのポスドクとして現所属に着任しました。きっかけは、JSPSの博士課程教育リーディングプログラムの支援を受けて実現した半年間の留学中に、現所属からお声がけいただいたことです。現在はライプニッツ協会の若手グループリーダー向けの競争的資金を基盤に、光学・レーザー科学向けの結晶材料研究を進めています。私の所属する研究所は、基礎研究だけでなく結晶材料の販売や技術移転といった実務も担い、研究と社会実装をつなぐ幅広い活動を展開しています。
ドイツに来た当初の2年間は、制度やキャリアパスがまったく分からず戸惑うことばかりでした。これまで多くのポスドク仲間と出会い、帰国を見送ってきた経験から強く感じるのは、「JSPSの支援期間が終わったらすぐ帰国する」のではなく、ドイツでキャリアを築くという選択肢を初めから意識しておくことの大切さです。新たな国での生活立ち上げや研究環境への適応、新しい同僚との信頼関係構築には想像以上に時間と労力が必要です。短期間で研究拠点を転々とするより、自分に合った環境を見極めて腰を据える方が効率的だと思います。
ただし、ドイツにおける研究者キャリアや制度に関する情報は、日本に比べて非常に得にくく、積極的に探さなければ届きません。幸い近年は、ドイツ研究者ネットワーク交流会の発足を皮切りに在独研究者同士の交流が活発化しており、情報収集の環境は大きく改善されてきているように思います。私もドイツ物理学・応用物理学会セミナー(リンク)、ベルリン・ブランデンブルクエリアの研究者交流会(通称ベルリン青熊会)の運営に携わっています。
ドイツでは博士修了後4〜6年程度の若手を対象に、早期独立を支援する若手グループリーダー向けプログラムが複数の機関によって提供されています。こうしたプログラムに採択されると、約5年間にわたり複数人の博士学生やポスドクを雇用できる規模の研究費を得られ、完全に独立した研究グループを運営できます。まさにポスドクの次のステップとして理想的です。博士課程は通常4年間に及ぶため、採用には慎重な判断と、修了まで責任を持って指導する覚悟が求められます。私自身、これまでに5人の博士学生を受け入れ、昨年は初めての博士号取得者を送り出しました。ドイツ若手グループリーダー制度の詳しい情報について記事にまとめていますので是非ご一読ください。(記事はこちら)
この若手グループリーダー制度は、日本にはあまり類を見ない、早期に独立研究室・グループを立ち上げられる仕組みです。十分な人件費と研究費が一体で支援されるため、研究室運営を通じてマネジメント能力も養うことができます。獲得できればキャリアを大きく前進させる大きなチャンスです。私が残す情報が、少しでもドイツで独立研究者を目指すきっかけや参考になれば幸いです。
ライプニッツ結晶成長研究所
ジュニアリサーチグループリーダー
田中裕樹
参考:海外特別研究員オリエンテーションおよびキャリアフォーラムでの講演

