
石川 浩史 研究員
海外に留学する日本人研究者の多くは、米国を行き先に選ぶことが多く、米国の主要都市では日本人研究者の会が継続的に活発に活動しています。こうしたコミュニティーでは、留学して間もない学生やポスドクからシニアな研究者に至るまで、研究者のネットワークが形成され、充実した研究生活を送るためのヒントが共有されています。一方、驚くべきことに、欧州各国にはこうした間口の広い会が存在していませんでした。本稿では、筆者らが2022 年に立ち上げた「ドイツ研究者ネットワーク交流会」について、立ち上げの経緯と現状を述べます。
JSPS ボン連絡センターは、海外学振のサポートを受けて滞独している研究者などを対象としたキャリアセミナーを毎年開催しています。私がそれに参加したのは2022 年秋のことで、似た境遇にある人たちがざっくばらんに語らえる稀有な機会という印象でした。対面で日本語を話せることへの感動もあってか、研究者主体の交流会ができたら良いと淡く呟く参加者は少なくなかったです。その翌朝、ホテルのチェックアウトの列で偶然居合わせた後の共同発起人・今里和樹さん(マックスプランク研究所)とのブレインストーミングが自然と始まり、帰宅する頃には立ち上げの青写真が描かれていました。
研究者交流会はオーガナイザーの帰国に伴い活動休止となる傾向があるため、継続できる仕組みを予め組み込んで立ち上げることにしました。具体的には、ドイツで長く活動している組織と協力しながら運営することや、運営に携わる研究者有志の負担をできる限り軽減する仕組みを整えることに重点を置き、在独日本国大使館やJSPS ボン連絡センターと連携することにしました。私たちの活動方針は一貫して、有志がやりたいことを実現するということです。研究者の役割を交流会の企画に集中させる一方、議事録作成や会場手配などは事務局が担う、まさに餅は餅屋のチームワークで運営しています。

また、多様性の獲得も継続において重要であると考え、参加者のスペクトラムを広げる工夫を重ねてきました。例えば、文理を問わず多様なバックグラウンドを持つ研究者に運営に参加してもらうことで、リーチできる研究者層が大きく変わることがわかりました。さらに、ドイツの産業界で活躍する研究者にもアプローチし、産学問わず幅広く参加を呼びかけてきました。
現在、私たちの交流会をモデルとして、欧州他国でも同様の会が相次いで開催されています。今後さらにドイツの交流会が継続し、欧州シリーズ化も加速していくことで、旅行のついでに各地の研究環境について知れる気楽な機会が増えていけばと思います。