研究者インタビュー:ドイツで教授になる ‐ポスドク後のキャリアパス‐

コンスタンツ大学
磯野 江利香教授

日本学術振興会のポスドクとしてドイツに来て、早いもので20年近くの年月が経ちました。幼少の頃の両親の留学先のベルリン時代を含め人生の半分以上をドイツで過ごしていることになります。私の研究室は植物における選択的タンパク質分解の過程を分子レベルで解き明かし、その制御が気候変動などにおける植物の環境応答においてどのような役割を果たしているのかを明らかにすることを目標としています。

チュービンゲン大学、ミュンヘン工科大学、コンスタンツ大学とドイツの大学において教育・研究活動に携わって参りましたが、その間にドイツの研究環境は大きく変動しました。女性教授の比率は、自然科学分野ではまだ2割を切るものの、2023 年の連邦統計局の統計によると全体では 28.8% (51,873 人中 14,939 人)に達しました。2002 年に導入されたジュニアプロフェッサー制度では、テニュアトラックと組み合わせれば、優れた研究者が早い段階で常勤のポジションを取れるようになりました。ジュニアプロフェッサーに限れば 2022 年時点で 1,800 人のうち半数が女性です。キャリアパスの多様化が進む中、C 給与体系から W給与体系への切り替えとそれに伴う gender pay gap、また 2021 年には” #IchBinHanna (I am Hanna)”により、学界有期 契約法(Wissenschaftszeitvertragsgesetz)の雇い止めにつながる問題点が浮き彫りになり、議論がなされています。

ポスドクの次のステップである独立グループリーダーのポジションはさまざまな研究機関で相当数あり、日本に比べて若手研究者が早いうちに独立できる環境が整っています。また 1999 年に始まったドイツ研究振興協会(DFG)の Emmy-Noether プログラムは博士号取得 4 年以内の研究者が応募でき、受け入れ研究機関を自由に選んで6年間研究室を運営できます。さらにその次のキャリアステップは常勤の(準)教授(W2・W3)のポジションです。同じ大学内で昇進できることは稀なので、近隣国も含めた公募に応募します。ただし国ごとに典型的なキャリアパスが異なるので情報収集が必須です。面接においては科研費等の取得実績、論文、教育経験、さらに大学の研究重点との整合性が評価されます。招聘を受けたあとの交渉はさまざまな条件を決めるために大切です。

▲磯野教授 研究室での一コマ

言語と文化の違いは大きな壁ですが、最近では修士課程の講義は英語で行う大学が多く、外国人にとってもハードルが低くなってきています。はっきり物を言う文化に傷付かなくなれば、ドイツはいろいろなことが効率的で暮らしやすい国です。30 日間程の有給休暇があるため、夏は 3 週間ほど休暇を取る人が多く、オン・オフの切り替えが上手な人が多いと思います。

私自身は異国の研究環境に身を置くことで日本の素晴らしさを改めて認識することができました。海外での研究経験を持つ次世代の若い方々が、両国の良いところを生かしながら研究の発展を担ってくださることを期待しております。